ICRPのドキュメントをどう読むか

暫くICRPのことばかり議論していたので、個人的にICRPのpublication群をどう読んでいるかをメモしておきます。(別に専門家ってわけじゃなくて、1年あれらを読みながら自分なりに考えてきたことっていう程度です)



ICRPの委員会は、(PDF)http://www.icrp.org/docs/ICRP_Membership.pdf こういう構成をもっていて、5つの委員会と、メイン委員会があり、それぞれボランティアの学者さんで構成されています。5つの委員会は、1、影響(健康への影響ですね) 2、線量(線量評価をどう行うか 3、医療(なんといっても医療関連の放射線利用は多いので) 4、防御 5、環境での放射線  です。
各publicationは、それぞれの分野に注目しながら、必要な変更をかけるときに出されています。2007年勧告は、久しぶりにかなり包括的な内容になっていた勧告だったんじゃないかと思います。
長いICRPの歴史の中で、1と2の検討は、実質的な根幹になってきた部分で、個人的には、ここはしっかり理解できたらいいなあと望みつつ、中々力及ばず泣いている分野です。



2007年勧告から続くpublicationで特に注目されてきたのは4の防御の実践部分にあたるところです。 そのコンセプトは、昨年のICRPシンポジウムの発表で垣間見ることができます。(PDF)http://www.icrp.org/docs/Jacques%20Lochard%20Application%20of%20Recommendations.pdf
下手に概略説明をするより、ぜひPPをご覧になってほしいのですが、、サイエンスと価値観と経験を総動員して、みんなで放射線防御を築いていきましょう。ということなのかなと読んでいました。
数値的な規制より、原則を、とか、可能な限り利害関係者に参加して自発的で効果的な防御を目指そう、ということと同時に過去の科学の膨大な蓄積を生かしていこう、というのもあって、それは両輪だろうなあと感じます。
科学と人間のバランスをとりながら、放射線防御を実践することが求められているのではないでしょうか。



そこで、あえて原点にもどるんですが、、ALARAとLNTは確かにICRPの慎重さを最大に発揮した部分ですが、その前に慎重かつ科学的作業があって、それなりの数値も提示してあることを忘れてはいけないです。ALARAとLNTだけでいいなら、そんな綿密な作業、全く必要ありません。


2007年勧告は、基本的に被ばく状況を計画被ばく状況、緊急被ばく状況、現存被ばく状況の3つのカテゴリーに分け、それぞれに応じた防御の方法を論じているドキュメントです。
 例えば、昨年武田教授が「放射線従事者が1m㏜以内でなければいけないのだから、一般市民もそれを守る必要がある」と主張して、一般人を混乱に陥れていましたが、カテゴリーを分けてあるのは意味があるし、それぞれの目標値は危険の閾値ではないです。
つまり、 ICRPに出されている数値は、2つの種類があります。1つは、細かいエビデンスや調査から得られている、「どこからが本当に危険なのか?」という数字。もう一つは「十分に防御的であるためにはどこを目標にすればいいか」という数字です。 
このどこを目標とすればいいか?という値が、さきほどのカテゴリー分け(計画、緊急、現存)によってそれぞれ決定されています。(そのシチュエーションに応じて、できるだけ低い値が選ばれています。 防御的であるためにですね。)


この1年、自分でも右往左往を繰り返していましたが、自分が混迷してしまった大きな理由は、「心配しないといけない数字」と「防御的であるために目指すべき数字」の区別が中々つかなかった点でした。
妊婦さんの例をとれば、「100mSv以下の被ばくであれば、堕胎とか考えなくていい」というのが心配しないといけない数字です。そして、十分防御的であるための目標値が、ALARAによる1mSvなわけです。
(前者のラインは核種やシチュエーションや該当被害によって異なる数字になります) まあ、色々合わせたうえで、「まだわかってないところもある」も含めて後者の目的値になってるんだと思うんですが、、 ニュアンスとして 「明らかに心配」な線と「よくわからんけど下げとこうか」線の違いを意識することは、大事なのじゃないかと思っています。(だからっていって、下げなくていいわけじゃなくて、下げたほうがいいに決まっています)


111の枠組み(現存被曝状況)の中で、放射線感受性の高い子どもたちや妊婦さんへの留意というのは、「まずは参考レベル以内ならそんなに心配はないです。 しかし、やっぱりALARAに原則に従って、1mSvを目指して、合理的に下げていきましょう。 その際に、放射線感受性の高い人たちは、優先的に考慮していきましょうね」 という意味合いと受け取っています。





カテゴライズされて設定された目標値は、その状況において有効な目標値です。例えば、緊急時の作業者の場合は、その作業に参加するかしないかという地点でコントロールが効くので、そこで数値をかましてあります。 しかし、緊急被ばく状況でも、現存被ばく状況でも一般人は状況に対してほとんどコントロールが効かないです。 避難するか、ゆっくり地道に、避けたり除染したりしないといけない。その状況で規制数値をきちきちにかましても意味がないーー−というのが、現存被曝状況において参考レベルを設定する、理由なんだと思うのです。現存被ばく状況(及び緊急被ばく状況)の参考レベルは、計画被ばく状況での規制値と異なり、その時の状況で可能な許容上限値です。同時にこの参考レベルは曝露状況や、地理的条件、経済力、時間的要因その他もろもろで、可変です。状況に応じて最適な値を選んでくれと言ってる。つまり、決まった数値ではなく、「下げていくという原則」を重んじた、自由度の大きい、ある意味現場を信じた規定です。ここを扱ってる時に、他のカテゴリでの「固定された規制値の概念」を混同しないようにするのは、現存被ばく状況の中で生活していく場合に、とても大事な点なのじゃないかと思います。
現状が、ほぼ安心であることを理解し、落ち着いて合理的に被曝線量を下げていければいいなあと願います。
(ついでに、今後、もし参考レベルが下がったとしても、それは実質的にそれ以上の線量がなくなったという意味でしかないので焦らない。)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー補足(自分の誤解部分)−−−−−−−−−−−−−−

まず、居住許可(正当化)があって、それから参考レベル。
参考レベルは被ばく線量をさげていくための目安。



buvery ‏@buvery
それは、正当化。参考レベルと関係ない。参考レベルは、正当化をした後の最適化の過程。RT @leaf_parsley: @kikumaco  基本的に、緊急被ばく状況から現存被ばく状況への移行は、ここまでなら居住可能というラインを出すことですよね?

菊池誠 ‏@kikumaco
@buvery @leaf_parsley 参考レベルは、居住許可が出てから設定するのであって、居住許可のための設定ではないと理解しています

buvery @buvery
兼ねてません。参考レベルは、個人の年当たりの実効線量で書くように、とあり、政府の決める居住(=正当化)とは無関係。RT @leaf_parsley: @kikumaco あれ兼ねてしまってないですか?正当化の瞬間と最初の参考レベルの設定って