早野坪倉宮崎論文を読んで

早野坪倉宮崎論文を読んでーーWBC運用へのお願い


原発事故後、愛知県から放射線への影響や、現地での対応の進展について、関心を持ち続けています。当初の関心は、農家の一員として「放射性物質はどのぐらい作物に移行するか? 放射性物質を大人、子供、妊婦はそれぞれどこまで食べて良いのか? 放射性物質の入った作物はどの値までなら売って良いのか?」という事につきました。
そのため、ツイッター上の早野教授の情報に注目してまいりました。
4月11日に早野坪倉宮崎論文が発表されて、福島の内部被曝について一つの区切りを迎えたと感じています。(注1
早野坪倉宮崎論文及び早野先生のうったえかけにより実現し、各自治体によって平行して実施されてきた給食丸ごと調査や、COOP等の陰膳調査から理解できることは、(注2

1) 市場品の汚染度は非常に低いこと。(検査が有効に働いているためと、市場希釈が効いているため)――陰膳結果を見る限り、一般の方は一食に1Bqあるかないかというレベルです
2) WBCで正確に計測された値は、福島県内の一般人の場合、とても低いこと。―子ども達のほとんどは計測限界300Bq/body以下。稀に採取品等の自家消費率の高い方が数値があがるけれど、1mSv/y以内で収まっています。ー50Bq/Kg以上の方は計測全体の0.04% (市場品汚染度が非常に低いのが理由ですが、子ども達の高濃度な食品の消費も抑えてくださっている親御さんの配慮のお蔭でもあります)  (注3

でした。

福島の内部被曝が、チェルノブイリ時のベラルーシウクライナ、さらには北欧サーミよりもはるかに低く抑えられていることを大変嬉しく思っています。(注4 また、現在の検査による出荷体制に自信を持つこともできました。(「どこまで売っていいか」のミニマム値は抑えられたと考えています。)

しかしながら一方では、いくつかの課題が残されているのも強く感じています。

1)正確なWBC値をBq/bodyで発表している自治体が少ないです。

早野坪倉宮崎論文の前提には、早野先生の明晰なWBC分析がありました。WBCの計測限界値領域にあった内部被曝値は、それだけでは値の変化を可視化することができません。「みんな1mSv/y以下です」という情報では、WBC結果を食事の改善に生かすこともできないし、継続したWBC検査へのモチベーションも失っていきます。
一方で、稀に高い方がいるということは潜在的な濃度上昇の因子はないわけではない。つまり、濃度上昇を抑える抑止力としてWBC検査を有効に働かせなくてはいけないです。なぜならば、出荷前検査が一番大事な前提だとすれば、WBC検査は答え合わせにあたるので。 出荷前検査が有効に作用していることを保証してくれるのがWBC検査であり、同時に自家消費のリスクを目に見える形にしてくれるのもここです。 (出荷後の希釈が効いた状態で購入した食品と、出荷前の食品を直に食べるのでは意味が変わってきますが、その結果を最終的に確認できるのはWBC検査です。測って得られた安心感によって、自家消費の増加をもたらす可能性があり、そうしたくなる気持ちも良く分かります。 また、実際これだけ余裕があれば食べても構わないのです。 現在、1段階目は恐ろしく低い値でクリアしました。次は自己管理による消費の段階が待っていると予想します。 このように予想される次の変化を測り取っていかないと、継続した健康管理には結びついていかないのではと思うのです。――「自家消費者はどこまで食べていいか?」)

また、消費側の数値感覚の緩和という点からも同様なことがいえます。現在の数値は大変低いです。チェルノブイリ後の北欧諸国と比較しても低いです。ここまで下げる必要は本当はないでしょうし、そのためにもしかしたらそこまでしなくてもよかった出荷自粛や生産品の遺棄が陰に隠れているかもしれません。例えば、里山からの採取販売を頼みにしていた農家では、おそらく相当の損失があります。 消費者の嫌悪感を少しでも軽減するためにもーー出荷前検査でヒットがあっても、市場品の平均値は低くなること。食べるBq値が多少あがっても、内部被曝の増加に大きく結びつくわけではないこと。を理解するためにーー、継続したまるごと調査やマーケットバスケット調査とWBC検査の連動した説明は必須です。(――「一般消費者はどこまで食べていいか?」)

早野先生が行ってくださったWBCの最適化は、「WBC値を有効に利用する」ための必須条件です。お蔭でWBC値を参考に使えるようになりました。(早野先生本当にありがとうございます)
ぜひ、あの成果をほかの自治体でも利用していただいて、細かいBq/bodyまで公開してください。

2) WBC値を、自治体の保健福祉活動に生かしてください。
保健婦さんの活動や、地域の健康診断とリンクさせて、生活習慣の改善のための一情報として生かしてこそ、具体的な放射性物質による内部被曝の予防になっていくのだと感じています。データを取って、「よくわかんないけど大丈夫だね」で終わらせず、継続的な内部被曝予防システムの構築を望みます。 情報の共有化と、有効活用の道筋が足りていないように見えるのを強く危惧しています。

3) 自治体レベルの検査結果があまりにも見えにくいです。どこかでプラットフォーム作ってもらえませんか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(注1 早野坪倉宮崎論文:
Internal radiocesium contamination of adults and children in Fukushima 7 to 20 months after the Fukushima NPP accident as measured by extensive whole-body-counter surveys
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/89/4/89_PJA8904B-01/_pdf
日本語抄訳版
福島県内における大規模な内部被ばく調査の結果
福島第一原発事故 7–20 ヶ月後の成人および子供の放射性セシウムの体内量 ―
https://docs.google.com/file/d/0Byf-QYeE0N7pTWFyRnVhMnhZNmM/edit?pli=1


計測性能の最適化について、参考スライド:WBCの抱える様々な問題点 早野先生
http://www.slideshare.net/RyuHayano/ss-11315090
宮崎先生「第 1 回ホールボディカウンター学術会議は何を明らかにしたのか?福島県内に配備の進むホールボディ
カウンターの運用について考える」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/47/2/47_108/_pdf

三春町小中学生のホールボディカウンター検査結果の公表:http://www.town.miharu.fukushima.jp/soshiki/11/kensakekka-kouhyo.html

僭越ながら、要約も作成しました⇒:http://togetter.com/li/486718



(注2 おもな給食まるごと、陰膳、マーケットバスケット調査結果
給食丸ごと調査例(福島市):http://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/61/kyushoku12040401.html
給食まるごと調査例(震災復興支援放射能対策研究所):http://www.fukkousien-zaidan.net/research/%E7%B5%A6%E9%A3%9F%E3%81%BE%E3%82%8B%E3%81%94%E3%81%A8%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%80%A7%E6%A0%B8%E7%A8%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%EF%BC%882012%E5%B9%B410%E6%9C%8831%E6%97%A5%E8%BF%84%EF%BC%89.pdf
陰膳(COOP):http://www.fukushima.coop/info/important/detail.php?d=4a3b9d072ff2df08439594b22047c2ac5e9a2e15
陰膳(震災復興支援放射能対策研究所):http://www.fukkousien-zaidan.net/research/%E9%99%B0%E8%86%B3%E6%96%B9%E5%BC%8F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%80%A7%E6%A0%B8%E7%A8%AE%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E7%B5%90%E6%9E%9C%EF%BC%882012%E5%B9%B410%E6%9C%8831%E6%97%A5%E8%BF%84%EF%BC%89.pdf
マーケットバスケット調査(厚労省委託研究):(PDF)http://trustrad.sixcore.jp/wp-content/uploads/2011/03/138201b57ed2d05cf8d81c2b52508832.pdf

(まとめ http://togetter.com/li/349516



(注3 主なWBC計測結果

三春町小中学生のホールボディカウンター検査結果の公表:http://www.town.miharu.fukushima.jp/soshiki/11/kensakekka-kouhyo.html
ひらた中央病院(震災復興支援放射能対策研究所)http://www.fukkousien-zaidan.net/research/index.html
南相馬市 http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,2033,61,html
福島市 http://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/71/h-kenkou12062801.html

(まとめ http://togetter.com/li/327396



(注4 チェルノブイリ後の周辺各国の内部被曝
http://togetter.com/li/462537