森林影響

日本森林学会 25年3月の大会 発表要旨

http://www.forestry.jp/meeting/files/%E6%A3%AE%E6%9E%97%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E5%A4%A7%E4%BC%9A%E8%AC%9B%E6%BC%94%E8%A6%81%E6%97%A8%E9%9B%86WEB%E7%94%A8.pdf

千葉県内の竹林における放射性セシウム濃度―千
葉県中部地域の竹林の調査事例―
・廣瀬可恵1
・遠藤良太1
・久本洋子2
・山田利博2
・田野井慶太朗3
・中西友子3
千葉県農林総合研究センター森林研究所・2東京大学千葉演習林・
東京大学大学院農学生命科学研究科放射性同位元素施設

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い千葉県内の筍
から放射性 Cs が検出された。そこで、?県中部地域にお
いて、文部科学省の航空機モニタリングによる放射性 Cs
沈着量が多い地域(10-30kBq/m2)の竹林 A と少ない地
域(≦10kBq/m2)の竹林 B で筍等の放射性 Cs 濃度及び
空間線量率を比較する。また、?タケの各部位、落葉、土
壌の中で放射性 Cs 存在量が多い部分を特定する。調査は
竹林 A で 2012 年 4 月上旬、竹林 B で 3 月上旬に行った。
? 竹林A、B において、筍食用部分、葉、落葉の放射性 Cs
濃度と地上高 10cm、1 m における空間線量率を測定した。
? 竹林Aにおいて、タケの各部位、落葉、土壌に存在する
放射性 Cs 量を単位面積当たりで比較した。その結果、?
竹林A、Bの順に、各部位の放射性 Cs 濃度(Bq/kg)は、
筍食用部分(生重)53.1、30.4、葉(生重)82.9、129.3、落
葉(乾重)2,129.4、2,079.5、空間線量率(μSv/hr)は、地上
高 10cm で 0.047、0.072、地上高 1 m で 0.059、0.063 であ
り、必ずしも竹林 A で高くなかった。?放射性 Cs 量
(Bq/m2)は、タケの各部位に比べて落葉および土壌に多
く、タケの各部位の中では稈で最も多かった。

                                                                  • -

J07 栃木県那須野が原地域における除染装置を備えた木
バイオマスガス化発電小型プラントの開発
・有賀一広1
・金築佳奈江2
・金藏法義2
・宮沢 宏3
・小出 勉4
・松本義広5
1宇都宮大学・2那須野ヶ原土地改良区連合・3
宮沢建設株式会社・4小出チップ工業有限会社・5松本興業株式会社

栃木県佐野市のセメント工場では、2009 年4 月から燃料
の 65%(年間 10 万トン)を木質バイオマスで賄う発電施
設が本格稼動した。この施設ではこれまでは RPS 制度を
利用してきたが、現在、FIT への申請を行っている。また、
栃木県那須塩原市那珂川町の製材所では、現在、木質バ
イオマス発電施設の整備が計画されている。今年度、那須
塩原市に 265kW が、来年度、那珂川町に 2,000kW の発電
施設が整備される予定である。一方、先の東日本大震災
は、栃木県北部に位置する那須野ヶ原地域でも甚大な被害
を受け、また、その後の放射能汚染による影響は大変深刻
な状況である。森林の除染については、落葉等の堆積有機
物、枝葉の除去や間伐など伐採による樹木の除去などが検
討されているが、これらの除去物質を木質バイオマスとし
てエネルギー利用することで、地域のエネルギー源確保に
繋がる。現在、宮沢建設株式会社、那須野ヶ原土地改良区
連合、小出チップ工業有限会社、松本興業株式会社、宇都
宮大学からなる事業組合によって除染装置を備えた木質バ
イオマスガス化発電小型プラントの開発が実施されてい
る。本発表ではその概要について報告する。

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外生菌根菌による放射性セシウムの吸収と共生
樹木への移行
中井 渉・岡田直紀・大橋伸太・高野成美
京都大学
菌類の子実体からは放射性セシウムが植物などと比べて
高濃度で検出され、その中でも菌根性のものからは腐生性
のものと比べて放射性セシウムが高濃度で検出されること
が知られている。植物の中には、菌根を形成して菌類と共
生し物質のやり取りを行うものがいる。放射性セシウム
高濃度に含む菌類と共生した場合、植物体の濃度にどのよ
うな影響が出るのかを調べるために、外生菌根形成樹種と
それ以外の樹種について当年枝より葉を採取し、137Cs の
濃度を比較した。調査は福島第一原発から約 20km に位
置する福島県川内村の森林 2 箇所で、2012 年 7 月から
2012 年 11月にかけて行った。樹木葉、菌類子実体の他に、
移行係数による比較を行うために土壌サンプルも同時に採
取した。菌類子実体についてはこれまで知られている通
り、菌根性のものは腐生性のものより高い移行係数の値を
示した。樹木葉については、採取した 14 種において外生
菌根形成樹種とそれ以外の樹種とを比較したところ大きな
差は見られなかった。

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広葉樹種における枝の水分通導性と葉の生理的
機能の関連性
作田耕太郎1
・山本佑介2
1
九州大学大学院農学研究院・2
九州大学大学院生物資源環境科学

樹体全体の水分通導性は、根から葉への水輸送の重要な
制御因子の一つであり、葉の生理的機能と密接に関連する
とされる。これまでに発表者らは、広葉樹樹冠中の枝の直
径 1cm 程度の枝分かれのない部分(枝セグメント)につ
いて水分通導性の測定を行い、散孔材、放射孔材、そして
環孔材樹種の順に高まることを明らかにした。しかしなが
ら、枝セグメントの水分通導性と葉の生理的機能の関連性
については不明である。本研究においては、九州大学箱崎
地区構内に生育する環孔材 3 種、散孔材 4 種、および放射
孔材 3 種の合計 10 種の広葉樹種を対象に、枝セグメント
の水分通導性と葉の生理的機能との関連性について検討し
た。2012年の 8 月∼9 月にかけて、まず当年生葉の最大気
孔コンダクタンスについて晴天日の正午頃に測定を行い、
続いて測定葉の着生する枝を採取し、枝セグメントの水分
通導性を測定した。さらに、葉の水分特性値をもとめるた
め、当年生葉の P-V曲線を作成した。これらの結果をもと
に、枝の水分通導性と葉の最大気孔コンダクタンスおよび
水分特性値との関係について検討し、木部の道管配列グ
ループごとの水利用戦略について考察した

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放射性物質に汚染されたほだ場におけるシイタ
ケほだ木の放射性セシウム濃度の変化及び落葉
除去と遮へい台設置の影響
岩澤勝巳
千葉県農林総合研究センター森林研究所
【目的】放射性物質に汚染されたシイタケほだ場では、汚
染されていない新ほだ木を伏せ込んでも、落葉等からの放
射性セシウムの移動が懸念される。そこで、ほだ木の設置
方法を変えて伏せ込み、その違いが放射性セシウム濃度に
及ぼす影響を調査した。【方法】千葉県内の2か所のほだ
場(空間線量率 0.093∼0.183μSv/h)に新ほだ木を 2012 年
4 月に伏せ込んだ。ほだ場には無処理区(落葉の上に伏せ
込み)、落葉除去区(落葉を除去して伏せ込み)、遮へい台
設置区(落葉の上に高さ 10cm のコンテナを設置し、その
上に伏せ込み)を設定し、設置前に 3 本、伏せ込み 6 か月
後に各区3∼6 本のほだ木を分析した。【結果】伏せ込み前
のほだ木の放射性セシウム濃度は検出せず∼4Bq/kg で
あったが、6 か月後は無処理区が 2∼20Bq/kg、落葉除去
区が検出せず∼36 Bq/kg と伏せ込み前より濃度の高いほ
だ木が多く、ほだ木下部の菌糸を経由して落葉や土壌等か
放射性セシウムが移動した可能性が考えられた。一方、
遮へい台設置区では検出せず∼4Bq/kg と伏せ込み前と概
ね同じで、遮へい台がほだ木の放射性セシウム濃度の上昇
抑制に効果的であった。

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ほだ木のフェロシアン化鉄処理によるシイタケ
中の放射性セシウム低減
鈴木拓馬・山口 亮
静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター
演者らは、フェロシアン化鉄(プルシアンブルー)の 0.1
% 希釈液でほだ木を浸水処理すると、1ヶ月後に発生した
シイタケ子実体のセシウム放射能が処理前に比べて半減す
ることを報告した。しかし、希釈濃度や処理方法がセシウ
ムの減少に及ぼす影響は不明である。そのため、異なる処
理条件で試験を行った。フェロシアン化鉄希釈液によるほ
だ木処理区(0.1% 浸水、5%浸水、5%塗布)と無処理区を
設け、処理前及び処理 6ヶ月後に発生した子実体の放射能
と含水率を測定した。その結果、処理区におけるセシウム
137 の放射能(含水率91% 換算)は、無処理区に比べ有意
に低かった(P<0.05)。処理前後の比較では、処理区で有
意に減少し(P<0.01)、減少率は?0.1% 浸水で 75%、?5
%浸水で82%、?5% 塗布で64%、?無処理区で 30% で
あった。これらから、0.1%と 5% の希釈濃度では、同等の
低減効果があり、処理から 6ヶ月後でも持続されることが
明らかになった。また、処理方法は、浸水に加えて、塗布
も有効であると考えられる。新たな処理条件でも低減効果
を確認できたため、生産現場に最適な方法を検討すること
が今後の課題となる。

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列状間伐後の浮遊土砂流出特性:流出モニタリ
ングと放射性物質を用いた解析
南 葰娟1
・五味高志2
・恩田裕一3
・加藤弘亮3
・平岡真合乃2
1
東京農工大学連合農学研究科・2
東京農工大学国環境農学専攻・
3
筑波大学生命環境系
To examine the effects of forest thinning on suspended
sediment (SS) transports within catchments, we monitored
catchment runoff (K2: 17. 1ha, K3: 8.9 ha) and measured
radiocesium activity of SS. Strip thinning (50% by stand
density) for commercial timber was conducted in K2 with
skid trail installation, while K3 was remained as a
reference. Mean amount of SS in the K2 was four times
greater than that in the K3, while Cs-134 activity was 328
Bqkg
−1
(SD=109) and 516 Bqkg
−1
(SD=71), respectively. These results indicated the amount of SS can be
increased due to strip thinning. The SS on skid trails (mean
of Cs-134 activity=119 Bq kg
−1
; SD=40) may be mixed in
the SS of the K2, the resultant in lowerCs-134 activity. Our
finding suggests the SS can be transported from hillslopes
to stream-channels via skid trails.
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スギの葉、雄花及び花粉における放射性セシウ
ム(Cs)の移行
金指 努1
・杉浦佑樹1
・小澤 創2
・竹中千里1
1
名大院生命農・2
福島県林研セ
2011 年 3 月に発生した福島第一原子力発電所事故によ
り、大量の放射性物質が自然環境中に拡散し、汚染の原因
になっている。2012 年には福島県のスギから放射性物質
を含む花粉が確認されたが、人体への影響はほとんど無い
と言われている。しかし、スギの花粉生産量は年ごとに異
なるため、単年度の結果のみで判断すべきではない。2013
年のスギ花粉に含まれる放射性物質濃度を測定し、また花
粉への放射性物質の移行を解明するために、葉及び雄花と
比較した。2012 年 12 月初旬に福島県全域における任意の
85 地点から 3 個体ずつ、雄花が付着したスギ葉を採取し
た。雄花、花粉、伸長年の異なる葉(2012 年、2011 年、
2010 年以前)に含まれる放射性セシウム(Cs-137、134)の
乾重当たり濃度を高純度ゲルマニウム半導体検出器を用い
ガンマ線スペクトロメトリーにより測定した。警戒区域
内にて雄花では Cs-137 で最大 4.8万Bq/kg、花粉では 1 万
Bq/kg を越える地点が存在し、依然高濃度であった。雄花
に含まれる Cs-137 濃度は 2012 年に伸長した葉より高い傾
向があり、選択的に雄花に移行している可能性が示唆され
た。

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千葉県柏市の森林における放射能汚染の実態
福田健二・朽名夏麿・寺田 徹・Uddin, Mohammad Nizam・神
保克明・Mansournia, MohammadReza・渋谷園実・横川 諒・
佐藤樹里・山本博一・横張 真
東京大学大学院新領域創成科学研究科
柏市を含む千葉県東葛地域は、周辺地域に比べて高濃度
放射能汚染がみられる「ホットスポット」となっている。
開発が進む柏市北部に残された都市近郊林「こんぶくろ池
自然博物公園」、「大青田の森」、「東大柏キャンパス」の 3
か所を調査地として、森林内の放射能汚染の実態を調査し
た。林内の空間線量は 0.2∼0.3μSv/h 前後で同地区の芝生
地等に比べてやや低く、樹冠による放射性セシウムの遮断
が示唆された。樹幹のセシウム濃度は、樹幹上部の外樹皮
で最も高く、材部では低濃度であったが、2011 年の年輪の
一部や 2012 年の当年枝からも検出され、樹皮や土壌から
の吸収と新梢への転流が示された。土壌のセシウム濃度
は、A0 層のリターと腐植層で数千∼1 万 Bq/kg で、下層
ほど低かった。2011 年秋の落葉は、コナラなどの落葉樹で
低く、スギ・ヒノキで高かった。落葉樹の 2012 年の落葉は
さらに濃度が低下した。2011 年、2012 年に採集したミミ
ズおよび地表徘徊性甲虫類で数百∼数千Bq/kg、キノコで
は腐生菌、菌根菌ともに数千∼数万 Bq/kg(乾重当り)の
高い濃度を示した。

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針葉樹林と落葉広葉樹林における林床の放射線
分布と放射性Cs 沈着量
佐々木道子1
・藤原佳祐2
・戸田浩人3
・崔 東壽3
1
東京農工大学大学院連合農学研究科・2
東京農工大学大学院農学
府・3
東京農工大学大学院農学研究院
2011 年 3 月の東電福島第一原発事故で放出された放射
性 Cs(134Cs、137Cs)の森林における分布状況を明らかに
するため、福島県群馬県東部の森林林床の放射線量と放
射性 Cs の測定を行った。二本松の調査地点はスギ、アカ
マツ、ナラ林が 3 地点ずつ計 9 地点、群馬県はヒノキ、ス
ギ、ナラ林が 2 地点ずつと、ケヤキ林 1 地点の計 7 地点で
ある。2012 年 7∼12 月に、各調査地に 2×2m方形区が
50∼100 個できるよう調査区を設置し、A0層上と表層土(0cm)
放射線量を簡易な放射線測定器(エアカウンター /
エステー)で測定し、そのうち 5∼10 地点をシンチレーショ
サーベイメータ(日立アロカメディカル)で測定した。
林床植生は植生内と植生上部の空間線量を測定した。放射
性 Cs 分析用試料として、各調査地より A0層(50×50 cm)、
林床植生、新鮮落葉を採取した。なお、群馬県の調査地は
以上の調査に先行して、2011 年 7 月よりリターフォール調
査を行っており、昨年 12 月までに採集したリターの放射
性 Cs を測定した。発表では林床の各空間線量と A0層、林
床植生、リターフォールの放射性 Cs、林相との関係などに
ついて報告する。


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栃木県の異なる空間線量地域における落葉樹林林
床の放射性降下物の蓄積状況─ 1 年半後の結果─
大久保達弘1
・逢沢峰昭2
・飯塚和也3
1
宇都宮大学農学部・2
宇都宮大学農学部・3
宇都宮大学農学部附属
演習林
2011 年 3 月の福島原発事故により拡散・沈着した人工放
射性核種は東日本の広範囲に及び、放射性セシウムの沈着
は栃木県が 1 %(陸地分 22 % 中)で福島県(15 %)、宮城県
(3 %)に次ぐ。栃木県では園芸用腐葉土の生産・販売が全
国ルートとして確立しており落葉採取が専業的に行われて
きた。事故後、一端各種堆肥の施用・生産・流通の自粛が
促された後、各種堆肥は暫定許容値設定(400Bq/kg)によ
り自粛廃止に至ったが、腐葉土と剪定枝堆肥は引き続き自
粛解除なく今日に至っている。本研究は落葉広葉樹林林床
での沈着実態を把握するために、栃木県下のブナ、コナラ
の落葉広葉樹林を中心に空間線量率の異なる 3ヶ所【塩谷
塩谷町(2)、那須烏山市(1)】で、事故約半年後の 2011
年秋、1 年半後の 2012 年秋の二時期に、それぞれ空間線量
率、表面汚染密度、放射性セシウムの落葉、林床の落葉層
(F、H層)、鉱質土層(5 cm)の比放射能(Bq/kgDW)の
比較を行った。これらの内空間線量率、落葉の比放射能
各地域で減少していた。さらに水平および垂直方向の放射
セシウムの蓄積状況と落葉利用可能性について議論す
る。

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福島県二本松市の針葉樹および落葉広葉樹林にお
ける表層土壌の放射性Cs
藤原佳祐1
・佐々木道子2
・戸田浩人3
・崔 東壽3
1
東京農工大学大学院農学府・2
東京農工大学大学院農学研究科・
3
東京農工大学大学院農学研究院
2011 年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故
により多くの放射性核種が森林生態系に放出された。今
後、森林に沈着した放射性 Cs が人間の生活圏に流出する
ことが懸念される。樹種および立地条件が放射性 Cs の分
布と動態に与える影響を評価するため、福島県二本松市
森林において調査を行った。地表および空中の放射線
(μSv/h)について現地調査を行い、A0層、表層土壌(0-5
mm、5-10 mm、50-100 mm)、代表する下層植生および新
鮮落葉については持ち帰り放射性 Cs 濃度(Bq/kg)を測
定した。樹種に限らず地域によって差がみられたことか
ら、放射性 Cs の沈着は現時点において、立地条件などの
地形的影響を強く受けていることが考えられた。同一地域
内において、樹種が放射性 Cs 濃度に与える影響は見られ
なかった。林床における放射性 Cs 濃度は土壌表面(0-5
mm、5-10 mm)に多く蓄積する一方、土壌深 50-100 mm
において、その濃度は著しく低下した。各森林の放射性
Cs 濃度比(5-10 mm/0-5 mm)は約 0.7 で、0-5 mm におけ
る放射性 Cs 濃度による差はみられなかった。

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福島原発事故から 1 年半後の森林の放射性セシウ
ムの分布状況
金子真司1
・高橋正通1
赤間亮夫1
・池田重人1
・佐野哲也1
・三浦
覚1
・大貫靖浩1
・平井敬三1
・志知幸治1
・阪田匡司1
・橋本昌司1

梶本卓也1
・田中 浩1
・齊藤 哲1
・高野 勉1
・小野賢二2
1
森林総合研究所・2
森林総合研究所東北支所
東電福島第一原発事故で放出された放射性セシウム(Cs)
の森林における汚染状況の変化を明らかにするために、
2011 年 8-9 月に調査をした福島県の 3 試験地(5 林分)で
2012 年 8∼9 月に再調査を行った。森林内の地上 1 m の空
間線量率は昨年に比べて低下傾向にあったものの、Cs の
物理学的壊変から予想される放射能の減衰(前年比 86 %)
に比べて低減率(前年比 91-104 %)は小さかった。また樹
木の葉や枝の Cs 濃度は前年に比べて大幅に減少し、堆積
有機物中の Cs も全般に低下したのに対し、表層土壌(0-30
cm)の Cs 濃度は増加した。その結果、森林内の Cs 分布
は、樹木と堆積有機物の Cs割合が低下し、表層土壌の Cs
割合がいずれの林分でも約 70 % と高まった。森林の Cs
蓄積量は、川内試験地および大玉試験地のスギ林では前年
比 87 % と低下したが、それ以外の林分では Cs 蓄積量は昨
年とほとんど変わらなかった。以上、この 1 年間に森林内
の Cs は樹木や堆積有機物から表層土壌へ移動し森林内の
Cs 分布は変化したが、Cs 蓄積量に大きな変化がないこと
から森林に沈着した Cs のほとんどは森林に留まっている
ことが明らかになった。

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スギ雄花に含まれる放射性セシウムの広域調査
赤間亮夫・清野嘉之・金指達郎・志知幸治
森林総合研究所
2011 年末および 2012 年末に、福島県を中心にスギ雄花
を採取し、放射性セシウム濃度を測定した。2011 年から
2012 年の 1 年間で空間線量率は 1 割程度低下していた。
両年ともに、空間線量率の高い地点では雄花中の放射性セ
シウム濃度(Cs-134 と Cs-137 の合計)も高いという関係
があった。スギ雄花に含まれる放射性セシウム濃度の
2011 年の最高値は 253000Bq/kg であったが、2012 年の最
高値は同一地点における、90500Bq/kg であり、最高値は
前年の三分の一程度になっていた。2012 年に調査した地
点につきそれぞれ対応する地点の前年の値と比較するとば
らつきがあり、一部には濃度の上昇が見られた例もあった。
ただし、全体としては前年の値の半分程度に低下していた。
このことは、2012 年における雄花への放射性セシウムの供
給状態が 2011 年とは異なっていることが考えられる。
2012 年に雄花に検出された放射性セシウムは、既に樹体内
(葉など)に蓄積されていて樹体内の転流により移動して
きたものが多く、この 1 年間に新たに吸収され雄花に蓄積
された放射性セシウムは多くはないと考えられる。

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樹木による放射性セシウムの経根吸収の実態
竹中千里1
・金指 努1
・杉浦佑樹1
・小澤 創2
1
名古屋大学大学院生命農学研究科・2
福島県林業研究センター
2011 年 3 月の福島第一原子力発電所事故により放出さ
れ、森林域に沈着した放射性セシウムの森林内の物質循環
系の中での動態解明は、今後の森林域からの放射性物質
再拡散のリスクを低減するための除染計画立案に非常に重
要である。事故後 1 年めは、葉や樹皮に沈着した放射性セ
シウムが、直接表面吸収され、樹体内を移動し、花粉や果
実に移行する現象が見出され、それらの移動・輸送を通し
ての再拡散が示された。もう一つのプロセスとして、土壌
にもたらされた放射性セシウムが根から吸収され、地上部
に輸送されるという経路が挙げられ、それを定量化し将来
予測することが重要な課題となっている。本研究では、事
故後2年目の成木の根系における放射性セシウムの分布を
明らかにし、経根吸収の有無とその状況を明らかにするこ
とを目的とした。調査は、2012 年 10 月∼12 月に、福島県
伊達市および富岡町において、コナラ、スギの成木、およ
びスギ、ヒノキ、ヒサカキの幼樹の根を採取した。イメー
ジングプレート法とγ線スぺクトロメトリによる分析結果
から、経根吸収が起こっていることが確認され、特にヒサ
カキの吸収能力が高いことが示唆された。

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ササにおける放射性セシウムの吸収・輸送に与える
養分動態の季節性の影響
齋藤智之1
・五十嵐哲也1
・酒井 武1
・伊東宏樹1
・池田重人1
・赤
間亮夫1
渡部秀行2
・大沼哲夫2
・高橋正通1
・田中 浩1
1
森林総合研究所・2
福島県林業研究センター
ササは林床に広く優占し、放射性物質による林床植物の
汚染の地域的な実態を比較する上で重要である。また、サ
サは分枝構造から各部位の齢が分かるため、放射性物質
濃度は年毎に生産された部位毎に明らかにでき、時系列で
動きを追えるかもしれない。本研究では原発からの距離の
異なる二地域、ササ3 種の放射性セシウム濃度の測定結果
を報告する。ササの採取地と対象種は、原発から距離約 40
km の川俣町内の広葉樹林に分布するクマイザサ、同様に
約 70 km のいわき市に分布するミヤコザサ、スズタケであ
る。各ササは地上部、地下部を採取し、分枝パターンに応
じて部位毎に Cs137 濃度を測定した。植物体全体の
Cs137濃度は、川俣のクマイザサで約 6 kBq/kg、いわきの
スズタケで約 800Bq/kg、ミヤコザサで約 200Bq/kg で、
地域の空間線量率とオーダーレベルで対応したが、地域内
では分枝構造、現存量の異なる 2 種間で異なった。部位別
では空間線量率や種に因らず似た傾向を示し、葉で高かっ
た。稈の齢構成では、事故当時存在した 2 年生以前の部位
の濃度が高く、降下物が表皮に付着した影響と思われた。
今後も測定を継続し、放射性物質の動態を解明したい。

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9 常緑広葉樹における葉齢に依存した 137Cs、
133Cs、および主要元素の濃度変化
佐野哲也・志知幸治・池田重人・赤間亮夫・三浦 覚・金子真司
森林総合研究所
常緑広葉樹の枝先端部における放射性セシウム(137Cs)
の動態を、自然界に存在する安定同位体セシウム(133Cs)
や同じアルカリ金属である K や Rb、アルカリ土類金属
ど他の主要元素との比較から検討する為、これら元素の葉
中濃度を葉齢別に比較した。森林総合研究所構内のヤブツ
バキ 4 個体から各 5 本の枝を 2012 年 6 月末に採集した。
枝の齢構成を芽鱗痕から判別し(最大で 5 年分の葉が着
葉)、葉を洗浄乾燥後、齢別にまとめ、137Cs の濃度は Ge 半
導体検出器(井戸型)で、他元素の濃度は湿式分解の後
ICP-MS で測定した。アルカリ土類金属や Al は、古葉ほ
ど乾重当たりの濃度が高くなる傾向が見られた。一方、K、
Rb、133Cs などアルカリ金属は、若葉ほど乾重当たりの濃
度が高く、新葉に移動し易い元素であると考えられた。137
Cs は、事故時に着葉していた葉で乾重当たりの濃度が高
くなる傾向が見られたが、事故後に展葉した葉で比べると
他のアルカリ金属と同様の傾向が見られた。ただし、乾重
当たりの葉面積は古葉ほど減少する傾向があり、葉面積当
たりの濃度で比べると、新葉で濃度が高くなる傾向が認め
られない場合も見られた。

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宇都宮大学演習林における放射性降下物による樹
体への影響
飯塚和也1
・相蘇春菜2
・大久保達弘2
・逢澤峰昭2
・平田 慶3
・石
栗 太2
・横田信三2
・吉澤伸夫2
1
宇都宮大学農学部附属演習林・2
宇都宮大学農学部森林科学科・
3
宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター
福島原発事故により広範囲わたり飛散・拡散した人工放
射性核種の中で重要な放射性セシウム(Cs)は、同族のア
ルカル金属であるカリウム(K)と化学的性質が類似して
いるため、植物体において、K の輸送系により吸収されて
いると考えられている。K の同位体である天然放射性核
種である K40 の一部は、γ崩壊をする。そこで、樹体中に
取込まれた放射性セシウムの挙動を調査するに当たり、
K40 に着目して、放射性核種ごとに Cs134、Cs137 と K40
の比放射能(Bq/kgDW)の測定を行なった。材料は宇都
宮大学演習林(空間線量率 0.2∼0.3μSv/h)のスギ、ナラ類、
コシアブラである。供試材料の比放射能は、U8 容器を用
い、Ge検出器(SEIKOEG&G)で測定した。測定時間は、
木材で 6000S、葉で 2000S または 4000S とした。若齢木に
おいて、コシアブラの葉はナラ類のそれと比べ、非常に高
い比放射性を示した。また、コシアブラの核種ごとの比放
射能の季節変動では、晩秋は夏に比べ、Cs は 1.8 倍の増加
を示したが、K40 では 1.5 倍の増加であった。

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スギとコナラ樹皮におけるセシウムの存在形態
富岡利恵・岩瀬 香・竹中千里・金指 努・杉浦祐樹・福島和彦・
青木 弾
名古屋大学大学院生命農学研究科
森林内に降下した放射性物質は表層土壌や葉、樹皮など
に強固に付着することが報告されているが、時間経過とと
もに変化する森林生態系内での循環プロセスや生態系外へ
の流出プロセスについてはほとんど分かっていない。除染
も含めた森林管理や福島県産木材利用において、樹木に吸
着した放射性物質や根から吸収された放射性物質の動態を
明らかにすることが求められている。本研究は樹皮に吸着
した放射性セシウム(Cs)の動態を明らかにすることを目
的に、第一歩として樹皮における放射性 Cs と安定同位体
Cs の存在形態を調べた。名古屋大学構内で採取したスギ
とコナラの樹皮を粉砕し、安定同位体 Cs を吸着させた。
吸着した Cs の酢酸アンモニウムと希硝酸に対する溶脱量
を調べたところ、スギ樹皮は吸着量の約 55 %、コナラ樹皮
は吸着量の約 20 % が溶出した。この結果から、安定同位
体 Cs は樹皮の陽イオン交換サイトにも吸着するが、多く
は他の形態で安定的に存在することが示唆された。また、
福島県で採取したコナラ樹皮について同様に酢酸アンモニ
ウムと希硝酸に対する放射性 Cs の溶出量を調べた結果、
放射性 Csの抽出率は 0.1∼0.5%と非常に低かった。

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アカマツとコナラの樹幹内における放射性セシウ
ムの分布
大橋伸太1
・岡田直紀1
・中井 渉2
・高野成美3
1
京都大学地球環境学堂・2
京都大学農学部・3
京都大学農学研究科
福島第一原発事故によって放出された放射性 Cs が1年
半経過後に樹幹内でどのように分布しているかを調べた。
福島第一原発から約 20 km 南西に位置するアカマツ林か
アカマツを、落葉広葉樹林からコナラを 2012 年 9 月に
伐倒し、ディスク試料を高さ約 5 m毎に採取した。樹齢は
いずれも約 40 年である。ディスクは外樹皮、内樹皮、木部
に分け、木部はさらに中心に向かって数 cm 毎に切り分け
た。これらは全て乾燥・粉砕した後、高純度ゲルマニウム
検出器を用いて試料中の放射性 Cs の放射能を測定した。
両樹種において放射性 Cs 濃度(Bq/kg dry)は外樹皮、内
樹皮、木部の順で高く、ディスク中の放射性 Cs放射能(Bq)
の合計は外樹皮、木部、内樹皮の順で多い傾向にあった。
木部では放射性 Cs 濃度は最外部で最も高く、それを除い
た辺材部では外側から内側にかけてほぼ一様であり、心材
部になると内側ほど低いという傾向が見られた。内樹皮と
木部の放射性 Cs 濃度はアカマツでは高さ別で違いはほと
んどなかったが、コナラでは高い所ほど濃度が高くなる傾
向が見られた。したがって樹種によって樹幹中の放射性
Cs の輸送や拡散に違いがあると考えられた。

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森林の堆積有機物から鉱質土壌への水を介した放
射性セシウムの移動
小林政広1
・大貫靖浩1
・篠宮佳樹1
・蛭田利秀2
1
森林総合研究所・2
福島県林業研究センター
2011 年 3 月の東京電力福島第一原子力発電所事故で放
出した放射性物質物質は、広範囲の森林に沈着した。長期
的な影響が懸念される放射性セシウムは、初期には樹冠
堆積有機物層に多くが捕捉されており、時間の経過ととも
に鉱質土壌へ移行すると予想される。ここでは、福島県
よび茨城県の森林試験地における、堆積有機物から鉱質土
壌への水を介した放射性セシウムの移動について報告す
る。各試験地において、テンションフリーライシメータで
堆積有機物層通過水を採取した。また、林内雨および深度
30 cm の土壌水も採取した。試料のセシウム放射能濃度
(Cs-134 および Cs-137)をゲルマニウム半導体検出器で測
定した。茨城県の試験地については、事故直後の試料も保
管されており、これらも測定対象とした。堆積有機物層通
過水中のセシウム放射能濃度は、夏季から秋季に上昇し、
林内雨より顕著に高くなる傾向が認められた。特に高濃度
の試料には、肉眼で確認できる懸濁物が含まれていること
が多く、ろ過により濃度が著しく低下することがあった。
これらには、主に夏季における堆積有機物の分解が影響し
ていると考えられる。

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森林から流出する放射性セシウムの動態とその水
文過程の影響
伊勢田 耕平1
・大手信人1
・田野井慶太朗2
・小田智基1
・野川憲
夫3
・堀田紀文4
1
東京大学農学部・2
東京大学農学部放射線植物生理学研究室・3

京大学アイソトープ総合センター・4
筑波大学流域管理研究室
福島第一原発事故放射性セシウム(137Cs、134Cs)が大
気に飛散し、東北、関東地方に広く降下した。現在、森林
に多く蓄積していると考えられる。一般に137Cs は粘土粒
子や有機物に吸着されやすく、それらが森林から懸濁物、
溶存物として河川へ流出し下流へ伝播されると考えられ
る。本研究では森林内外での137Cs の動態を把握すること
を目的とし、福島県伊達市上小国川流域上流部の森林で水
文過程に沿った調査を行った。森林では、樹幹流、林内雨、
林外雨の137Cs 濃度を測定した。樹幹流、林内雨の137Cs 濃
度は非常に高い一方で林外雨は低く、また、樹幹流の137Cs
濃度は常緑樹(スギ)、落葉樹で差はなく、林内雨では常緑
樹で高い傾向がみられた。これらから新たな大気降下物は
少なく、樹幹、葉の137Cs 現存量が多いことが分かった。
森林外では、上流から 9 地点で河川水を採取し、懸濁態、
溶存態に分け各々の137Cs 濃度を測定した。溶存態はこれ
まで微量とされてきたが、懸濁態よりも濃度が高い地点も
あり無視できないことが明らかになった。また、降雨時
の137Cs の流出量の変化から、主に降雨時に流出すること
が明らかになった。
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森林を流れる渓流水の放射性セシウム濃度につい

坪山良夫1
・橘内雅敏2
・篠宮佳樹1
・池田重人1
1
森林総合研究所・2
福島県林業研究センター
2011 年 3 月に発生した東京電力福島第一原子力発電所
の事故では周辺の森林にも放射性物質が降下した。これら
の森林の多くは河川の上流にあり、冬に雪が積もる地域も
あるため、雪解けの増水にともなう放射性物質の流出を心
配する声があった。ただ、実態を把握するための情報は必
ずしも十分とは言えなかった。そこで、事故翌年の 3 月よ
福島県内6 箇所の森林を流れる渓流水の放射性セシウム
濃度の調査を行った。その結果、渓流水の放射性セシウム
濃度が増水時に高くなる場合があり、その時に渓流水が含
放射性セシウムは主に浮遊物質に由来するものであるこ
とが示唆された。

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ウッドチップを用いた放射性セシウムの森林土壌
からの除去
金子信博1
・中森泰三1
・田中陽一郎1
・黄 垚1
・大久保達弘2
・飯
塚和也2
・逢沢峰昭2
・齋藤雅典3
・石井秀樹4
・大手信人5
・小林大
輔6
・金指 努7
・竹中千里7
・恩田裕一8
・野中昌法9
1
横浜国立大学・2
宇都宮大学・3
東北大学・4
福島大学・5
東京大
学・6
福島県立医科大学・7
名古屋大学・8
筑波大学・9
新潟大学
福島原発事故により汚染した森林の除染には、伐採や落
葉除去だけでは十分でなく、処理した木材と落葉の処分も
問題である。森林土壌から、安全に放射セシウムを除去す
る方法を提案する。落葉分解試験を、二本松市のコナラ林
で 2011 年 12 月から 2012 年 12 月まで行った。6 月には、
落葉の放射性セシウム濃度は土壌の 2 倍から 3 倍となり、
土壌の約 12-18 % が上方向に落葉へと移動した。この移動
は、糸状菌有機物上で生育する際に土壌からセシウム
取り込むためと考えた。落葉の代わりに伐採した樹木を
ウッドチップ化し、土壌のセシウム糸状菌によってチッ
プに集める方法を考案した。汚染地域の木材中の放射性セ
シウム濃度はまだ高くないので、森林を伐採し、現地で幹
材をウッドチップ化しメッシュバッグに入れ、隙間なく置
いて半年後に回収することで、低コストで安全に除染が可
能である。半年程度経過したウッドチップはまだ分解が進
んでいないので、安全な施設で燃焼し、灰を最終処分する。
単に伐採して放置するのでなく、この方法で森林施業を積
極的に継続しつつ、汚染木材をバイオ燃料として活用し、
復興に活用することが可能である。

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福島県の山菜の放射性セシウム汚染
清野嘉之・赤間亮夫・齊藤 哲
森林総合研究所
山菜の放射能汚染が報告されているが、山菜の採取・利
用に当たっての注意は喚起されていない。科学的データに
もとづいて対処方針をたてる必要がある。2012 年 5 月に
福島県川内村大玉村で山菜 14 種 30 サンプルを採取し、
γ線スペクトロメトリー法で放射性セシウム濃度を計測し
た。夏には 12 種 24サンプルを採った。5 月の結果(既報)
は以下の通りで、採取地の空間線量率は 0.3∼5μSvhr
−1

山菜乾重 1 kg 当たりのセシウム 137 濃度(Bqkg−1
)は
100∼14,300、同 134+137濃度は 162∼24,100、後者の生重
換算濃度は 16∼2,810 であった。セシウム 137 濃度は空間
線量率と正の相関があり、採取個体が付着根を持ったり、
集水地形に育つ場合に高濃度であった。成果にもとづき、
高濃度汚染の山菜を採る危険を減らすための対処方針(案)
を作成した。夏のサンプル乾重 1 kg 当たりのセシウム
137濃度(Bqkg−1
)は 187∼19,300 で、5 月と比べて、濃度
は低下したものから増加したものまで種によってさまざま
で、成長様式の違いが関係していると考えられた。今後
データを増やし検証していく。
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O18 福島第一原子力発電所事故に起因する野生キノコ
への放射性セシウムの蓄積─東京大学演習林にお
ける事例─
山田利博1
・村川功雄1
・齋藤俊浩2
・大村和也2
・高徳佳絵2
・井口
和信3
・井上 淳4
・才木道雄2
・齋藤暖生5
・辻 和明6
・田野井慶
太朗7
・中西友子7
1
東京大学千葉演習林・2
東京大学秩父演習林・3
東京大学北海道演
習林・4
東京大学演習林生態水文学研究所・5
東京大学演習林富士
癒しの森研究所・6
東京大学演習林樹芸研究所・7
東京大学大学院
農学生命科学研究科
【目的】福島第一原子力発電所事故に起因する放射性物質
の低汚染地域は東日本の広域に及ぶ。キノコは低汚染地域
であっても比較的高濃度の放射性 Cs を含むことが多い。
そこで低汚染の森林地域におけるキノコと土壌の放射性
Cs による汚染状況を明らかにすることを目的とした。
【方法】東京大学の 6 地方演習林においてキノコとその潜
在的な基質を 2011 年秋に採取し、134Cs および137Cs の濃
度を測定した。
【結果】放射性プルームの広がりの延長上にある秩父演習
林ではキノコとリターで比較的高い放射性 Cs 汚染が認め
られた。リターの汚染は千葉演習林や富士癒しの森研究所
まで広範囲に広がっていたが、一部のキノコを除きリター
よりもキノコの方が放射性 Cs の濃度は低かった。北海道
演習林および生態水文学研究所では今回の事故による放射
性 Cs は確認されなかった。また、大気圏内核実験あるい
チェルノブイリ事故に由来すると推定される137Cs もキ
ノコと土壌で確認された。
O19 森林性ネズミ類における放射性セシウムの事故当
年の蓄積実態
山田文雄1
・友澤森彦2
・中下留美子1
・小泉 透1
・島田卓哉1
1
森林総合研究所・2
慶応大学
福島第一原子力発電所事故(2011 年 3 月)により放出さ
れた放射性物質は森林の落葉層や土壌表層に蓄積され、生
態系での動態や野生動物の影響把握が求められる。地表や
土壌中を生活空間とし、短寿命のアカネズミを対象に事故
発生の 7-9ヶ月後の放射性物質の蓄積の実態調査を行なっ
た。調査地は 1)原子力発電所から 30 km の福島県川内村
国有林(川内調査地とよぶ、空間線量は平均3.6μSv/hr、
10 月下旬調査)と、2)70 km の茨城県北茨城市国有林
(小川調査地、空間線量 0.2μSv/hr、12 月上旬調査)の 2 カ
所である。両調査地でアカネズミ類を 30-50 頭捕獲した。
測定した放射性物質は、放射性セシウム半減期約 2 年の
Cs-134 と約 30 年の Cs-137)で、放射性ヨウ素(I-131、半減
期約 8 日)は検出限界以下であった。放射性セシウムの体
内蓄積の部位は主に筋肉中とされ、アカネズミにおいても、
筋肉(骨含む)中で肝臓より 4 倍高く、また毛皮より 2 倍
高かった。両調査地におけるアカネズミの筋肉(骨含む)
中の放射性セシウムの蓄積量には個体変異が大きいため、
空間線量や齢・性及び食性との関係を検討した。

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栃木県奥日光、足尾のニホンジカにおける放射性セ
シウムの蓄積状況
小金澤正昭
宇都宮大学農学部附属演習林
森林における Cs の動態を明らかにするため、空間線量
30 k−60 kBq/m2
の栃木県日光市ニホンジカ 80 頭を捕獲
した。測定部位は、筋肉、心臓、肝臓、肺、腎臓、胃内容
物、直腸糞、羊水、胎児とした。70Bq/kg 未満の測定値は
検出限界(36∼69Bq/kg)と検出限界未満(35Bq/kg以下)
に分けた。奥日光、足尾ともほぼ同じ蓄積傾向を示し、筋
肉が最も高く、奥日光では平均75Bq で、100Bq 越えた個
体は 12 % であった。足尾では平均 49Bq で、100Bq 越え
る個体はなかった。臓器類は検出限界で、腎臓>肝臓>心
臓の順に低下した。肺、胎児、羊水は検出限界未満であっ
た。また、胃内容物と直腸糞は高い値を示し、直腸糞は胃
内容物の 4倍から 5倍の値を示した。また、直腸糞と筋肉
には有意な相関は認められなかった。これは、直腸糞が胃
内容物と同じく直近の採食物の Cs 値を反映するのに対し
て、筋肉や臓器類は代謝の影響を受けた結果と考えられた。
一方、当地域の主要食物であるミヤコザサの葉は平均 249
Bq/Dwであったことから、採食によって常に放射性 Cs が
摂取されていると言える。
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O21 福島原発事故後 2 年目における捕食性節足動物
の放 射性物質の移 行-ジョロ ウグ モ(Nephila
clavata)の事例
綾部慈子・金指 努・肘井直樹・竹中千里
名古屋大学大学院生命農学研究科
2011 年 3 月の福島第一原子力発電所爆発事故により放
出され、その後森林地域に降下した放射性物質食物連鎖
を通じての濃縮・拡散過程を明らかにするため、林内、林
縁部に生息する捕食性節足動物の造網性クモを対象とし
て、その虫体に含まれる放射性セシウムの濃度を測定した。
調査は 2012 年 10 月下旬に、発電所から北西 30∼35 km に
ある福島県伊達郡川俣町内の渓流沿いおよび高台の二次林
と、西 65 km の郡山市にある福島県林業試験場構内におい
て行なった。地表から 1∼2 m 高の網上のジョロウグモ
採集し、持ち帰って個体湿重を測定した。各採集地では、
地上高 1m の空間線量も併せて測定した。クモ個体は乾
燥重量測定後に粉砕し、高純度ゲルマニウム半導体検出器
を用いたガンマ線スペクトロメトリーにより 1.6 万∼35 万
秒測定し、Cs-137、134 の個体重当たり濃度を算出した。
その結果、30 km 地点の渓流沿いで採集されたクモの Cs-
137濃度は 2000∼6800[Bq/kgd.wt]、35 km 地点の高台の
二次林では 820∼2300 であったが、郡山市の大部分の個体
からは不検出であった。

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O22 放射能汚染地帯の野生生物の長期モニタリングに
向けて(環境変化と鳥類)
石田 健
東京大学
福島第一事故原発の北西方向に約 30 km 離れたおよそ
20 km四方の高線量地域において、2011 年 7 月から鳥類カ
ウント、景観観測、ウグイスの捕獲、累積線量測定など実
施している。結果の一部と現地での観察から、鳥類を始め
とした野生生物が、放射線と、人間活動低下等による環境
変化、それらの結果として生じる種間相互作用の変化など
によって、どのような影響を受けるのか、わからないなが
らも予測し、議論の種としたい。北阿武隈高地には、15 種
以上の地上性哺乳類や 150 種程度の陸生鳥類を始め、多く
の野生生物が生息している。なだらから残丘陵群の中に田
畑、牧草地、落葉樹林や針葉樹植林が混じった景観で、生
物多様性は高い。人の手が強く入ってきた生態系であり、
避難に伴って人間活動の低下がもたらす環境変化も大き
い。長期低線量内部被曝と環境変化の影響を区別すること
は容易ではないものの、長期の広域で鳥類カウントとウグ
イス等の捕獲個体を用いたモニタリングによって、少しで
も、両方の影響が明らかにできるかもしれない。ウグイス
の羽毛と地上約 12 m の枝先∼地中(15 cm)の微環境の線
量モニタリングの結果、線量変化をもとに、予測する。

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P2-001 スギ次世代選抜における個体育種価と若年後代
集団から推定された育種価の比較
武津英太郎・松永孝治・倉原雄二・千吉良治・高橋 誠
森林総合研究所林木育種センター九州育種場
森林総合研究所林木育種センターでは第 1世代精英樹間
交配家系の植栽試験地(以下、育種集団林)からの第2 世
代精英樹候補木(以下、候補木)の選抜を進めている。ま
た候補木の後代検定と第3 世代精英樹候補木の選抜を目的
とした候補木同士の交配家系の植栽試験地の造成を行うと
ともに、候補木のクローン検定を進めている。育種集団林
からの次世代精英樹候補木の選抜は試験地内微小環境の影
響を大きく受けるため個体の遺伝的能力の推定誤差が大き
い。そのためより高精度の個体評価法が求められている。
本報告では九州育種基本区のスギについて候補木の樹高
データに対し 3 つの異なる選抜時個体評価値(表現型値・
家系情報を考慮した育種価(以下、個体育種価)・形質の空
間自己相関と家系情報との両者を考慮した育種価(以下、
AR個体育種価))を算出し、後代検定林(林齢:2 年)で推
定された育種価(以下、後代検定育種価)及びクローン検
定林(林齢:5 年)でのクローン評価値との相関関係により
3 つの個体評価法を比較した。クローン評価値は AR 育種
価との間に有意な高い相関係数を示す傾向にあった。一
方、後代検定育種価と選抜時個体評価値との間の相関は小
さかった。

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福島第一原発事故後における空間線量率の低い
落葉広葉樹林放射性セシウム動態(?)休眠
期から葉の展開後までの放射性セシウム濃度の
変化
伊藤 愛1
・加藤 徹1
・綿野好則2
鈴木拓馬1
・近藤 晃1
1
静岡県農林技術研究所森林・林業研究センター・2
静岡県くらし・
環境部環境局自然保護課
森林内での放射性セシウム(以下セシウム)の分布や循
環の解明が、森林資源の管理のために重要な課題となって
いる。2011 年以降、東日本の森林でセシウムに関する調査
が進められているが、高線量の地域を対象としたものが多
く、低線量の地域における知見はほとんど無い状況である。
そこで、空間線量率が比較的低いクヌギ・コナラの混交林
2 地点(2012 年 1 月時点で 0.12 と 0.14μSv/h)において、
セシウムの分布と、休眠期から葉の展開後のセシウム濃度
の変化を調査した。同一個体(2 地点合計 9 個体)を対象
として、2012 年 2 月と 6 月に試料を 100 ml 採取し、乾燥
後にゲルマニウム半導体分析器でセシウム濃度の測定を
行った。採取部位は、樹体では樹皮と辺材(地上高 1 m と
6 m 地点)、葉と枝(セシウム降下後に伸長したもの)、樹
体以外ではリターと土壌 3 層(表層から 5 cm ごと)とし
た。その結果、樹体では樹皮で最も高濃度のセシウムが検
出された。セシウムは、事故後1年以上経過して展葉・伸
長した葉や枝からも検出された。2 月に林内で最も高かっ
たリター層のセシウム濃度は経時的に減少し、表層土壌の
セシウム濃度は増加する傾向にあった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
7 森林環境における福島原発事故由来の放射性セ
シウムの移行
加藤弘亮1
・恩田裕一1
・河守 歩2
・小松義隆2
・依田優紀2
1
筑波大学生命環境系・2
筑波大学大学院生命環境科学研究科
福島第一原子力発電所の事故に伴って大気中に放出され
放射性物質(特に放射性セシウム)は、福島とその近県
の広範囲に及ぶ森林の放射能汚染を引き起こした。しか
し、我が国の森林での放射性物質の動態についてはよく分
かっていない。そこで本研究では、常緑針葉樹と落葉広葉
樹において、林内雨、樹幹流、落葉等に含まれる放射性セ
シウム濃度の分析を行い、森林内での移行状況を明らかに
することを目的とした。調査対象地域は、栃木サイト
(137Cs沈着量<10 kBq/m2)と、福島サイト(137Cs 沈着量
> 300∼600 kBq/m2)である。本研究の結果から、森林に
降下した放射性セシウムの大部分が樹冠にトラップされ、
その後の降雨によって徐々に林床へ移行していることが明
らかになった。落葉広葉樹林では、林床で最も高い放射性
セシウム濃度が検出されたが、一方の常緑針葉樹林では、
原子力発電事故から 1 年経過した後も、大気からの総沈着
量のおよそ 25∼40 % が依然として樹冠に残存しているこ
とが明らかになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

林木と土壌の放射性セシウム 南相馬市におけ
る事例
益守眞也・野川憲夫・丹下 健
東京大学
原子力発電所の事故によって放出された放射性物質が降
下した福島県南相馬市において、林木や土壌の放射能を事
故 1 年半後の 2012 年夏から計測している。
成長錐などで採取した材片をイメージングプレートに載
せて放射能分布を画像化したところ、様々な樹種において
樹皮表面に強い放射能が不均一に分布しているようすや、
個体によっては木部にも放射性物質が含まれているようす
が見てとれた。
スギとアカマツについて、枝、葉、根、高さごとの幹(樹
皮と辺材と心材)に分けて放射能定量した。葉と樹皮に
放射性セシウムが多く検出された。事故後に形成された 1
年生葉や当年葉にもセシウムが含まれていた。木部からも
検出された。とくにスギでは、樹冠に近い幹の木部で、辺
材より心材に多く含まれる傾向があった。事故直前に伐倒
されセシウム降下時に葉付きのまま林内に放置されていた
スギの木部にもセシウムが含まれていた。根系を介さず樹
皮あるいは葉から取り込まれて木部まで移行したものと考
えられる。
また、落葉落枝層と土壌表層にセシウムが多く含まれて
いることや、事故後に林内で発生した実生にも少なからず
セシウムが移行していることが示された。

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リタ-を通じた福島第一原発由来の放射性セシ
ウムの針葉樹林樹冠から土壌への移行と分布状

Teramage, Tesfaye1
・恩田裕一1
・加藤弘亮1
・五味高志2
1
筑波大学・2
東京農工大学
The accident of Fukushima Daiichi nuclear power plant
on March 11, 2011 was recorded as third major episode
that injects anthropogenic radionuclide materials to our
biosphere. The distribution patterns of the radionuclides
depend on different factors including land use type that
the plume could crossover. Due to large surface area
provided by tree canopy, forest acts as radiocesioum
storage pool and continuously delivers to forest floor via
falling litter and rain. Our investigation in coniferous forest
revealed that litter contributes about 23 % of the soil
radiocesium inventory and more than 80 % of the
inventory located in organic rich upper soil layer. The
Activity in Of-layer increases steadily and it likely be a
zone of accumulation and biogeochemical barrier for
radiocesium migration. Therefore, forest floor would be a
source for biogeo-recycling radiation routes and exposure
font for forest-dependant living chain including humanbeing in for an extended period of time.


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日原川流域における放射性物質の分布状況
小川雄太・山中弘己・橘 隆一・福永健司
東京農業大学
2011 年 3 月 11 日に発生した東京電力福島第一原子力
電所の事故により、大量の放射性物質が大気中に放出され
た。その一部は多摩川の源流域にも沈着し、降雨や土砂移
動によって河川に流出している。源流域は 9割以上が森林
で、沈着した放射性物質の大部分は森林に存在する状況と
なっている。本研究では、多摩川源流域でも特に放射性物
質の濃度が高い日原川流域において、尾根部 5 地点と山頂
13 地点のリター、土壌表層部(0-5 cm)、深層部(5-20 cm)、
及び河川 4 地点の堆積物に含まれる放射性セシウム(134
Cs、137Cs)を測定した。その結果、リターでは、山頂で平
均2,211Bq/kg、尾根部で 1,128Bq/kg、土壌表層部では山
頂で 764Bq/kg、尾根部で 1,396Bq/kg、土壌深層部では山
頂で 199Bq/kg、尾根部で 546Bq/kg だった。つまり、放
射性セシウムはリターでは山頂で高いが、土壌では表層、
深層に関わらず尾根部で高くなった。また、河川堆積物で
は 160Bq/kg で、河川に流出した放射性セシウムが未だに
検出されることが分かった。

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