ヨアヒム・リンゲルナッツ 「すかんぽ」


スカンポ(哀れな草)
           ヨアヒム・リンゲルナッツ
 
土手の上でスカンポ
レールの間に生きていた
急行ごとに気をつけをし
人の旅するのを眺めていた
埃にまみれ煙を吸い
肺を患い
うらぶれた
哀れなスカンポ 弱い草
目もあり心もあり耳もある
 
汽車は去りゆく
汽車は近づく
哀れなスカンポ
哀れなスカンポ
鉄道ばかり見てすごし
鉄道ばかり見てすごし
いつしか汽船を見ることもなし
 
土手の上でスカンポ
レールの間に生きていた

#2年前にお亡くなりになった歌手の高田渡さんが 「日本に来た外国の詩・・・」というアルバムで曲をつけて唄ったことから有名に。曲はしみじみと聞かせる曲です。
後日談があって、後年、高田渡がヨアヒム・リンゲルナッツの母国ドイツを訪れ、彼の国でリンゲルナッツを歌うミュージシャンと邂逅します。しかしドイツで演奏される「哀しい草」はどれも、高田渡が17歳の頃この詩に感じたメランコリックな音楽とはまったく異なる、ユーモアあふれる作品ばかりだったそうです。
ヨアヒム・リンゲルナッツは 20世紀初頭の詩人です。典型的なボヘミアンで、いろいろな職に就きながら各地を転々としました。ウィーンの「芸術家の酒場ジムプリチシムス」で自作の詩を朗読。大当たりをとり、当時(1909年)はやっていたこのキャバレーの専属詩人に。煙草の煙と酔客の喧騒のなかで、愉快な詩を朗読しては、ワインを謝礼にもらっていたそうです。

郵便切手



男性の郵便切手が、はりつく前に
すばらしいことを体験した
彼はお姫様になめられた
そこで彼には恋が目覚めた


彼は接吻を返そうとしたが
そのとき旅立たねばならなかった
かくて甲斐なき恋であった
これは人生の悲劇である

こういう詩のほうがどうも多そうなので、さもありなん と思ったエピソードでした。