バンダジェフスキー剖検論文

彼は、1990年代の前半のセシウム汚染が激しい時期にゴメリ地区の病院の長を務めていた教授で、多くの臨床例に接しています。 その結果の論文として
1、「慢性的なCs - 137の子供の臓器での取り込み」
http://www.smw.ch/docs/pdf200x/2003/35/smw-10226.PDF
ゴメリ地区でなくなった子ども達の、臓器の解剖研究ー臓器ごとにセシウム蓄積を測っています。

2、チェルノブイリの子ども達のセシウムの蓄積量と心血管の徴候との関係 -予備的考察:リンゴペクチンの経口摂取後の観察 http://tchernobyl.verites.free.fr/sciences/smw-Galina%20Bandazhevskaya.pdf
パンダジェフスカヤ教授(奥さん)が主筆になっています。94人の子ども達の研究

3、セシウムの心臓への影響
http://radionucleide.free.fr/Stresseurs/Radioactive_caesium_and_heart_eng.pdf
いくつかの論文のまとめと、ゴメリ地区での症例研究)

などがあります。 前回の日記では、2番目の論文の考察を行いましたが、ここでは最初の論文について少し。

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ベラルーシのゴメル地方では、放射能による子供の被害が出ていて、その多くがヨウ素のせいと報告されている。でも時間がたってから発病するケースや、事故後生まれていなかった子供の場合では、すぐ半減してしまうヨウ素が原因とは思えないケースも多々ある。

セシウムについては、お母さんの血液が100ベクレル/kgまでなら胎児に行かない。でもそれ以上だと障害が出る場合がある。子供たちにとってはミルクとかキノコとか、セシウムのたまりやすい食べ物が重大な影響をもつこともあるから、セシウムの子供への影響を調査した。

・まず、低レベルのセシウム胎盤が吸収し、またはブロックしてお母さんの血液に返し、おなかの中の胎児には影響しなかった(良かったですよね)。でも高いレベルだと影響があったが、その場合は多くの場合、流産した。

・事故後10年たって、放射性ヨウ素はほとんど無い時期に生まれて、半年だけ生き延びた赤ん坊6人を解剖して、その内臓にセシウムがたまっているかどうかを調べた(表1)。(本文よりbq/kgであることがわかります)心臓、甲状腺、胸腺、副腎、膵臓などにたまっていました。脳にもたまっていました。(著者は考察していませんが、脳の方が重いので、器官あたりの量だと相当な割合が脳にたまっていることになります。)

・つぎに、1997年に死亡した子供と、その子供と同じ地域で同じ生活をしていて死亡した大人を解剖して、放射性セシウムを比較しました。同じ生活をしていた大人と比較して、すべての器官で子供の方が多く吸収していました。心臓、甲状腺、小腸は子供は大人の倍以上でした。この子供たちはチェルノブイリの時は未だ生まれていないので、ヨウ素の被害では死亡していないはずです。(図1、調査人数不明だけど複数。大人と子供は、おそらく1997年頃に同時に死亡した家族。)

・最後に、チェルノブイリの頃にすでに生まれていて、1997年に死亡した年長の子供52人を解剖して調査しました。(表2)(標準偏差が異様に低いです。つまりぶれが少ないです。これもkgあたりです。図1に類似した傾向を示しました。)
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という感じです。

ゴメリ地区というのは、ベラルーシ南部に位置する農村地域で、原発から少し離れたホットスポットにあたっていたため、放射性降下物濃度が高かったことが分かるのが遅れてしまった地域になります。農村内部での自家消費分も多い地域であったため(キノコとかミルクとか、色々ですね) 初期被曝も、その後のセシウム蓄積も非常に高くなってしまいました。

この論文で、非常に困るのは、剖検前にどれだけの体内蓄積量を持っていたのかが不明な点でして、それに加えて剖検時の手順も書いてないために、どのぐらいの損失があったとか、各臓器の重さをどのぐらいに見ればいいのか?とかも分からないので、逆算して推測するのも、ちょっと難しい状態にあります。
彼らの蓄積は確かにあるわけですが、それが「極端に過剰なセシウム蓄積」によってもたらされているのか、それとも「ふつうにありそうなセシウム蓄積」でもこうして死亡している例があるのか? そして何より、どういう機序でもたらされたのか? 追試で再現性が見られないのはなぜか?(><)

福島へ演繹して考える場合、「こうならないための濃度」を知りたいわけですが、。。。。非常に悩ましい論文です。

→後日派生したツイッターでの会話
http://togetter.com/li/230022