前の日記で書いていたラットの実験の別バージョンです。この実験では各臓器の蓄積量変化をみていました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20539123
http://www.irsn.fr/EN/Research/publications-documentation/Aktis/envirhom/ingestion/Pages/Cs_biocin.aspx
アブストラク
この実験の目的は、異なったスケジュールでのセシウム137の慢性的な取り込みによる臓器への蓄積状況を測ることにあります。ラットは6500Bq/Lのセシウム137濃度の水を与えられました。(実際に飲むのは一日あたり35ミリリットル程度)摂取開示時期は、生後すぐからと、離乳時、および、成熟後(13週目)のいずれかとなります。ラットはそれぞれ異なった期間の摂取を経て剖検されました。セシウム137の計測はγ線で行っています。尿でのセシウム量の減少がすべてのパターンで見られます。すべての臓器で軽いセシウムの増量がみられました。例外だったのが限られた時期における横紋筋と甲状腺です。一時期の甲状腺で一番高い蓄積が検出されています。一番低い蓄積値は腸で吸収した後、転送コンパートメントとして機能する血液で発見されました。
中枢神経系の部分構造は、嗅覚の嗅球を除いて、137Cs蓄積の均一なレベルを示しています。これらの構造では、137Cs濃度の増加は、鼻腔上皮を介して吸気の可能性が直接的なルートを示唆し、観察されました。全体的には、これらの結果は、137Csの生物動力学のための現在のモデルと一致しています。しかし、同時に甲状腺が137Cs生物動力学の将来のモデルで考慮されるべきであることも示唆しています。

IRSNの一連の内部被曝実験の一つにあたります
参考 IRSNの記述
http://www.irsn.fr/EN/Research/publications-documentation/Aktis/envirhom/ingestion/Pages/Cs_biocin.aspx



実験本文の私的考察

ラットの誕生からセシウム入りの水を飲ませ(6500Bq/L濃度の水を大体35mlぐらい飲用)離乳期、1か月後、3か月後と臓器を剖検。
それと並行して、大人のラットにもセシウム入りの水を飲ませ、1ヵ月、3か月、9か月と剖検調査しています。今までのラット実験と異なるのは、慢性摂取の初期から、段階を追いながら臓器ごとの数値を確かめている点です。

この結果、一番顕著な結果が得られたのは、甲状腺への蓄積状況で、

・最初の1ヵ月の蓄積が他の臓器に比べて3〜3.5倍程度、大きい
・その大きかった蓄積が、段々減少して、9か月後には通常臓器と同じレベルになっている

の二つの傾向が現れました。
初期に一番状況が現れているために、慢性的な蓄積が起きるのを待っていた過去の実験では現象を特定できなかったということになります。

この結果を文字通りにとると、
セシウムは恒常的に蓄積が続くような状況になると、初期に甲状腺に他の臓器よりも蓄積しやすく、時間がたつにつれて解消されていく」ということになり、ラットの時間経過と比較すると、初期の6年間ぐらいが要注意期間ということになります。 (どうも大人も乳児も関係なく、初期が要注意???)
ちなみに、ラットは生後3週で離乳。生後8〜12週で性成熟に達するそうです。

ただし、 ヨウ素131とちがって100%移行するわけではありません。そういう意味では凶悪ではなくて、他の臓器よりも溜まりやすいというレベル。例えば実効線量をベースに考えれば、今までの実効線量×2あたりを甲状腺等価線量と考えるぐらいになるのじゃないか?と(ちょっとわかりませんが) ただ、長期にわたる話なので、影響が長引くかもしれません。

いくつか疑問点があって

1、検体数が少ない。 (誤差範囲が大きい)
2、アダルトと定義してあるラットの実年齢。←開始時に13週のラットでした。
3、この実験でのセシウム濃度は、6500ベクレルの水を平均35ミリリットル、約200ベクレル相当を飲ませていて、3か月目の段階で2000ベクレルの体内蓄積、9か月目の段階で3000ベクレルの体内蓄積を形成しています。それが人間にとってどのぐらいの濃度であるのか?について論文中には
In fact, the daily ingestion of caesium 137 by mice (approximately 80 Bq/day/animal) or by rats (close to 100 Bq/day/animal) is within the low range of estimated daily ingestions in humans (estimated to be between 100 and 2100 Bq/day)(Cooper et al., 1992, Handl et al., 2003).
こういう説明があります。大体人間にとっては100から2100Bq/dayだそうです。が本当にそうなのかな?
4、濃度がもっと低い場合は、この蓄積傾向が起きるのかどうか?(単純に濃度に比例して起きるのか、それともある濃度から突然この現象が起きるのかが不明)
5、ラットの生命時間と人間の生命時間との差をどうみるか。

あたりが気になります。


とはいえ、この知見が立証されたら、「大人なら大丈夫」と安心しないで、セシウムの摂取管理をしたほうがよさそうです。