透明人間が夕飯に

透明人間のくせに食べる食べる。皿の中身が口と思しきところへシュッタと消え去っていく。 大食い選手権さながらに皿が消え、お代わりを請求する。
急いでご飯を盛り、追加にもう一斗焚き始める。鶏を2羽ネギと白菜を山のように切り刻み大なべで煮込みつつ、返す手であさりをバケツ一杯酒蒸しに、豆腐十丁手で崩して麻婆豆腐を炊き上げ、残ったひき肉を素早く丸めて唐揚げる一方からくず餡をこしらえ、ゴマを磨って叩き牛蒡をあつらえ、ジャガイモを山のようにゆでてじゃがバターにチーズ。できるそばからテーブルへ運ぶ間も惜しいとばかりに消え去っていく皿また皿。死屍累々と重なっていく皿また皿の山のあなたの空遠く幸い棲むと人のいう。
延々と消え続ける食べ物に続いて、マルチーズの太郎を横においたら消えた。 猫のみけも消え、金魚のトトカルチョも消え、食卓にいたばあちゃんが消えた。ピアノもテレビも車も小僧も消えて、家が消えて、最後にあたしが消えた。