街角には、白い柱が一本立てられている。象牙の色のなめらかな小さな突起に覆われ、大人が手を回しても少し届かない程度に太く、もたれるのにちょうどいいへこみがいくつもあった。 手を触れると人によっては柱の中へ消えてしまうことがあった。身につけていた一切をその場に残して、あっさりと消える。帰ってきたという話は聞いたことがなく、一方通行だった。 誰でも消えるわけではない。ほんの一握りの人だった。聞くところによれば、彼らには 「真にそれを望んでいた」という共通点があるのだという。柱に消えた人は聖人になったのだと言われていた。

自死を考える人々は、まずこの柱に訪れるようになった。あっさり消えればそれでよし。 消えなければ、まだこの世にやれることがあるのだと なんとはなしに納得がいくのだった。ほとんどの人はただその柱に手を触れるだけで終わるのだが、引き寄せられるかのように、訪れる人がたえることがなかった。そして、柱の回りには花もたえることがなかった。
街には奇妙な平安と哀しみが漂った。