西瓜

96だった大叔父が暑さに耐えかねてとうとう往生したのが3年前の8月4日。
「もうちょっと前にいってくれりゃあ、初盆も今年すまかいたのに」と、葬式と三日七日と盆と忌明けがごちゃごちゃにきちまった夏に大叔母がこぼしてたのを思いだす。

喪服は暑くて、呂の着物なんかあつらえちゃあなかったもんで袷のやつ。流れる汗が背中にしみをつくっちまって、帯は厚いし、化粧は流れる。 古い家なんで「俺の目が黒いうちゃあ葬式は家であげるにきまっとお」 「棺桶は家から出すもんじゃあ」なんて無駄にはりきった伯父が仕切って、仕切って、 女どもあ掃除とおさんどんに追い回されて、一人倒れて救急車。 やけに大きいセミの声がへろへろになってた住職様の経文と張り合って、 ういんういんと苦しげに回る扇風機 合掌 礼拝。
汗びっしょりの仏間で、大叔父だけはドライアイスを腹に巻き込んで白いキリが立ち上った。

井戸で冷やした西瓜を棺桶と一緒にもってって、焼けるのを待ってる間に斎場で食った。