甲斐先生

拝啓
(中略)
問い合わせは、3月4月の甲状腺スクリーニングについてです。
数日前、放出量の訂正がなされてから、ツイッター上で私の周辺では議論が少し起きていました。

今回の議論のメインは、
「放出量推定が増えたとしても実測値としてのスクリーニングがあるから、被ばく推定はそんなには動かないだろう」
という主張に対して
甲状腺スクリーニングは実数が少なすぎるため、全体像を反映はできていない」

という点でした。

私は、小児甲状腺等価線量がWHOの試算のmaxで100〜200mSvの推定値になったとしても、それでもまだチェルノブイリよりはるかに良い状態だと思うし、そもそも、最大区分値はグラフのずっと左側に山を作ると考えます。


ですが、自分は自信をもって言い切ることができません。
間違っている可能性も多々あります(今までも沢山の誤解がありました) ご助言をいただけたらと、不躾ながらメールを出させていただきました。。
お忙しい中、突然、私事を持ち込み大変恐縮です、、、
(無視してくださっても構いませんので、)

敬具 

上記の件でメールをいただきました。
事故後、さまざまな問題で不安なことをお持ちかと思います。

質問は、原発事故から環境中に放出された放射性物質の量の訂正があり、総量が90京ベクレルと報道されたことで、従来の推定量が77京ベクレルから1.2倍増加したことで、小児の甲状腺線量の推定に影響するかという質問と理解しました。

結論からいうとすぐには影響しないと考えています。
理由は次の通りです。

1)個人の線量を推定する基礎となっているのは、測定データです
 放出量の推定には不確かさがあります。とくに、どの時点でどのくらいの放出量があったかが重要なデータで、そのときの風向きによっては海側に流れていきます。現在推定されているのは、総量ですから、その数値に比例して線量が影響を受けることにもなりません。

 放出量を用いて大気拡散の計算を行う(SPEEDIのような計算シミュレーション)場合でも、大気中の濃度や地表面の濃度の測定値と比べて、ある時間の放出量を修正していく方法がとられます。

 このように、放出量は地球全体への影響をみるとやチェルノブイリ事故との比較のときには参考になりますが、個人の線量を推定するには大きな役割を果たしていません。

先日、WHOが福島事故の線量推定の報告書(中間報告)をまとめました。
http://www.who.int/ionizing_radiation/pub_meet/fukushima_dose_assessment/en/index.html

この中で、線量推定は、測定データを基礎にして行っています。ただし、国外の推定には、測定データが少ないので、放出量を用いた推定を行っています。

2)甲状腺スクリーニングの位置づけ
 甲状腺スクリーニングは、飯館村、川俣町、いわき市の地域の子どもたち1080名を国の災害対策本部が測定したものです。この測定は3月24-30日に実施され、60%が検出限界以下でした。検出限界の線量を考慮しても、93%が10mSv以下であったと推定されています。
 WHOは、この数値を参考にはしていますが、最終的には地表面の測定データなどから計算で甲状腺線量を推定しています。その結果、乳幼児は、汚染の高い地域で100-200mSv、その他の福島県内で10-100mSvと推定しています。

最近のニュースによると、弘前大学の床波教授のグループは、4月11-16日に浪江町津島地区の住民などの測定した結果から、大人で最大で87mSvであったが、子どもの最高は47mSvと推定している。つまり、汚染の高い地域の線量を意味しています。

このように、直接測定したデータはそれなりに信頼できるものと考えていますが、すべての人々を代表しているかといえば、必ずしもそうではないので、WHOのような高めの推定値になっていると考えられます。

今後は、多くの測定データを集め分析して、線量推定が行われていくと予想されます。その推定値にそって今後の健康調査などの対応がとれていくべきと考えています。

大分県立看護科学大学
甲斐倫明