◆ビートたけしさんらが「命」うたう50編、選詩集に涙の反響

asahi.com】2007年10月06日11時38分

 ここにある一編の詩を読んでください。そして決して死なないでください――死を見つめる子供や大人にこう呼びかけた選詩集『一編の詩があなたを強く抱きしめる時がある』(PHP研究所)が反響を呼んでいる。詩人やミュージシャンら多彩な顔ぶれが命の輝きをうたい上げた詩が50編。刊行から半年で「何があっても死んだらあかんなぁと思った」といったメールや手紙、電話は1000件を超えた。

 編集したのは名古屋市で詩集の文庫「夢ぽけっと」を開く水内喜久雄さん(56)。コピーライター糸井重里さんが巻頭詩「ひとつ やくそく」で、子供にこう語りかけた一節が水内さんの思いを代弁している。

 おやより さきに しんでは いかん/おやより さきに しんでは いかん/ほかには なんにも いらないけれど/それだけ ひとつ やくそくだ

 タレントのビートたけしさんも「騙(だま)されるな」という詩で、生きているだけでいいんだ、と呼びかける。

 人は何か一つくらい誇れるもの持っている/何でもいい、それを見つけなさい/勉強が駄目だったら、運動がある/両方駄目だったら、君には優しさがある/夢をもて、目的をもて、やれば出来る/こんな言葉に騙されるな、何も無くていいんだ/人は生まれて、生きて、死ぬ/これだけでたいしたもんだ

 他にも、ミュージシャン絢香(あやか)さんや福山雅治さんの歌詞、女優の黒木瞳さん、漫画家みつはしちかこさん、詩人の岸田衿子さん、まど・みちおさん、谷川俊太郎さんらの詩を収めている。

 水内さんは名古屋で27年、小学校の教師を務め、体調を崩して退職。02年に所蔵する詩集を無料で貸し出す文庫を開いた。現代詩集シリーズ「詩と歩こう」(理論社)などの編集にも携わった。

 「教師を辞めても子供の自殺が報じられると悲しくてなりませんでした。何ができるかと自問し、詩の力を借りようと思い立ちました。詩はどんな人の心にも優しく入ってゆくから」

 文庫の詩集3000冊以上を1日16時間ぐらいかけて読み直し、選び出した詩と歌詞の作者に「命のぎりぎりにいる人にあなたの詩を届けたい」と手紙を書き、50人から承諾を得た。長い書名に固執したのは、「せっぱ詰まった人が見て、自分に発せられた言葉と受け止めてくれるように」との思いからだ。

 読者は必死の思いで読後感を訴えてきた。「泣いて泣いて泣きまくったら、また生きていこうと思いました」と京都の女性。今年3月に22歳の息子を自殺で失った母親は、1カ月早くこの本を手にしたかった、とうち明けた。講師を務める大学で選詩集の話をしたら、驚きの声を上げた女子学生がいた。あとで届いたメールに「うつ病と診断されてつらい日々を過ごす時にこの本を見つけ、眠れない夜に読んでは励まされました」とあった。 水内さんは「多くの方と詩の力によってつながることができ、今は私が励まされています」と話す。
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