「感受性の喪失」 吉本氏が若い詩人について率直に語る

asahi.com】2007年04月21日13時09分
 82歳の詩人から発せられたのは「塗りつぶされたように無だな」という厳しい感想だった。吉本隆明さんが、最近の若い詩人について率直に語る場に接する機会があった。
 現在、母校・東京工業大世界文明センターの特任教授。副センター長で社会学者の橋爪大三郎さんと同センターフェローで詩人の水無田気流(みなした・きりう)さんが、昨年秋から吉本さん方に通い、芸術言語論の講義をビデオに収録してきた。その最終回、「新しい詩人について」をテーマにした収録に同席したのだった。吉本さんは思潮社の「新しい詩人」シリーズなど若手の詩集約30冊を集中的に読み、その傾向を三つに大別した。
 まず、日常的な生活を描写し、詩らしくしようとしているが、何をどう書くかという自覚性がうかがえない詩。これが大部分だという。次に、持てる教養や知識を精いっぱい使い、難しい言葉で難しいことを言っているが、詩の表現になっていない詩。最後に、少数の例外ながら、詩的イメージを作りだし、あるいは脱出口になり得るかもしれない詩もあったそうだ。
 詩集を片っ端から読みながら「おれは何か勘違いしているのではないか」と自らの目をうたぐる瞬間もあったらしい。「詩らしく行分けしてあるが、詩になっておらず、モチーフも凝縮できていない。この軽さは一体何なのか」と。
 こうした傾向の背景として、自然に対する感受性の喪失を指摘した。「日本の詩の伝統では自然がないとどうにもできない。萩原朔太郎中原中也も、自然を抜かしたら詩にならない。自然の絶滅状態で書かざるを得ない若い詩人たちは、自然以外の何ものに向かって脱出してゆくのか」
 計6回の講義ビデオは編集して、授業か講演会で使われる予定だ。「詩の現代性について大きなテーマを与えられた気がする」と吉本さん。新たな著作が生まれるかもしれない。

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