砂原に リミックス

砂原に




砂原を歩いていると、人間の手が蠢いていたので、掘り出した
父だった
父はこんなところに埋まっていたのだ
途中から誰かがわかったので、指先でなでるように、焦って掘り出した
息をしていた


父とはもう語ることはなかったので、
一緒に砂原に座っていることにした

果てしなく続く荒野のむこうから
一列に並んだ ふんどし一丁の青年たちが
「どすこーい  どすこーい」と一斉に四股を踏みながらこちらへむかって行進してくる
みれば、皆普通の青年たちで、痩せていたり、太っていたり、もちろん髷なぞ結ってはいない
同じリズムで足をあげ、両手を突き出しながら
「どすこーーい どすこーーい」と続く唱和が
耳に轟く音量になって


陽がさんさんと照り
風が砂を運び
遠くの空をなにかが飛び去って
足元で虫が這い
父は横に座っていた

途方もなく大きい岩壁にしがみついていた。
傾きは急だがすべりの悪い滑り台の途中に留っているようで、
手を離してもすぐ落ちるわけではない。
しかし体を岩壁から離してしまえば、バランスを失って落ちていく予感があった。
これから登ろうとしているのか、それとも降りようとしているのかもさだかではない
モーツアルト ヴァイオリン協奏曲第1番 艶やかなヴァイオリンの音色を背景に
指揮者のバーンスタインの白黒反転写真が岩壁に刷り込まれていく。
同様な人間たちが まるで、岩にふなむしがたかっているようだ。
岩壁のはるか上は青い空が広がる。下はかすんでしまって見えない。
演奏が終わった。拍手をしなければいけないが、手を離すのが怖い。
近くにしがみつく男は拍手をしていた。いや、拍手をしながら落ちていった。
片手で岩の角をしっかりつかみながら、岩肌を叩く。
ブラボーという声がこだまする。
好演を伝える英字の新聞記事がバーンスタインの写真の横に刷り込まれ、
みな一斉に登り始めた。 


風が夜を運び
砂が湿り気をおび、
夕焼けの赤いベールが閉じられていって
父は横に座っていた

初潮が終わった夜、母が大事そうに真っ白い真綿の塊をこっそり持ってやってきた
真綿の中には真っ白な細い小さい蛇がいて、眼は真っ赤だった
「もう、こういう時期になったのね、大事に飼ってあげなさい」 と
その蛇をパジャマのズボンの中へ忍ばせる


長い、長い夜が
一息一息の呼吸をルーペで覗き込むような細密さで
私と父に刻印を刻む
父は ただ横に座っていた

父の家には、一部屋抜群に居心地のよい部屋があった
庭に張り出すようにして建てられた翼で東と南に庭があり
広い室内の磨いた床には丸いラグが敷かれ、
大きめのクッションが散らばり
人が横たわれるほどのソファが一つと小さめのテーブルが一つ
父の使うマッサージ椅子が一つ


毛の長いムートンの白かった色は黄ばんで、
父は、この部屋で音楽を聞きながら本を読むのを好み
子供であった私たちも、暇をみつけては飼い猫よろしく
部屋の片隅に座り込んで本を読み、うたたねした


庭の奥に植えられた背の高い山桜から
はらはらと雪が降るように、花びらが散り
四季咲きの雲南萩の花が、風に吹かれて踊り、
いたずらに撒き散らしたおしろいばなの種が
大きな株となり、幾場所も花盛りになった


父は ただ


リン、チャン、シャン、キンキンキン。
ヒューーーールーーーーシャン。

雅楽のオンが空気を伝わる
顔を赤く、あるいは黒く 水色に染めたものどもが
葛篭をかついで、列をなす
朱の装束、黒い直垂   青の装束、金の靴

ケイ、シン、サイ、 チンチンチン
オユーーーーーーン

街のように大きい船は、白と金で塗られ、
船首には、世界をこゆる龍 目と額に水晶の球を抱く
甲板には船室では我慢できないと誇示するかのように、
色鮮やかな天蓋が点在し、風が吹けば飛んでしまいそうな
小さい木造の建物が乱雑に
均衡をとるためであろうか、ひときわ丈の高い塔が、船首と
船尾にマストとはまた別にたち、窓から何者かが覗く
万国旗が何百となくはためき、
どの一枚をとっても見覚えのない印であるのだ

リン、チャン、シャン、キンキンキン
ヒューーーールーーーーシャン
皆一様に、透明な微笑みを浮かべ、なにやら浮き立つような

ケイ、シン、サイ、 チンチンチン
オユーーーーーーン

白い朝を迎えるころに
私はもう一度父の上に砂をもり
父の手をたった一度だけ握り締めてから
家へ帰った


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#どうもうまく機能してないなあ 差し替え検討中