「廃棄を待つ街」
ニュータウンに猫はいない
時折現れる人も、あしばやに通り過ぎて
過去の希望が焼け焦げてしまった残骸に 気づかないふりをする
つぶれたペットボトルが 風に吹かれてすべっていった
「郊外の一戸建て」に住む女は 独りパンの造花を作り続ける
いつか誰かがソレを見て「ほんとうにきれいね」と言ってくれるのを夢にみて
とある日の笑いがしみこんだテーブルは蒼ざめて
落書きを書きなぐられては消され、消されてはまた書かれていたコンクリート壁
もはや書く人も消す人もいないままに黒ずんでいく
白墨石で円を書いた駐車場のアスファルト
猫が子を産んだ軒下のアロエに
いたずらに生い茂ってしまった楡の木の影が長く射す
あの楡を大事に残そうとビラを配っていた男は、とうの昔に死んでしまった
雲が走りさって
追いつく術もなく 背中にその爪をひりひりと感じながら
指の間から零れていくなにものかに 悦ばしげに酔いつぶれ
醗酵した塩の柱になって錆びて さびおちていく