遺跡の町2

☆正式名称
長官の正式名称は、”メア複合遺跡特別保護区域統合管理長官”


☆シティドクター
 アール氏は街の都市建築課の課長だ。背が低くネズミのような風貌をしているが切れ者で、建築学と公衆衛生学の博士号を持っている。 「人間の住んでいる都市は、都市そのものが生き物です。血管に血が流れるように事物が流れ、ものを食べ、消化します。便秘や下痢になってはいけませんし、風邪をひいても困ります。僕の仕事は街のお医者さんですよ。」「ここの窓から見える石の橋ですが、あれは街の高層部分をつなぐ大動脈であると同時に、消化器官的なライフラインでもあります。あの橋よりも高層区域は橋の内部を通っている上下水道、電気ガスライン等々を利用しています。」「実のところ、先人たちも上下水道に工夫を凝らしていました。 下層へ下っていくと3階層置きぐらいに大規模な水道設備を見ることができます。昔の下水は楽しいですよ。」アール氏の趣味はフィールドワークで、遺跡の下水道調査に余念がない。ただし危険も隣り合わせで、彼の左手は指が一本欠損している。ネズミにかじられたのだ。



☆我楽多な幽霊たち
 午後3時、二人の屈強な男たちが籠椅子をかつぎ、階段をゆっくりと登り降りする。クリーム色の薄布で覆われた椅子には、豪奢に着飾った老姫君が座っている。最後にこの街に訪れた離宮の主の愛妾となった姫だ。やんごとない老姫君の行き先は前の長官のお屋敷で、毎日1時間、碁を打つ。 姫の本当の趣味は道中での拾いものだ。お屋敷は物や人や生き物やそのいずれでもない何かで溢れている。



☆はずれの塔
 西のはずれの塔のハト小屋。朝焼けの空に、数百羽のハトが美しく円を描く。



☆波紋を描く音
 渓谷の壁を切り開いて音楽堂が刻まれている。中心で発せられた音は壁にぶつかりながら幾重にもこだまし、天上の音楽を作り出す。ここで演奏される音楽は、この音響効果を最大限に発揮できるものが選ばれる。間隔をおいてこだまする音の重なりを計算して作曲されるのだ。1月の終わりに音楽堂でフェスティバルが催される。冬の透明な空気の中で 音は、鮮明な輪郭を描いて響く。


☆気狂い詩人
 バー”芸術と花と石”にいる。ピアノを弾きながらすっとんきょうな歌を歌う。統合庁舎の壁の落書きは彼が書いた。



☆石畳
 道の舗道部分は、石の棒をパズルのように組み合わせて舗装する。棒の長さは一定だが上から見える形状は様々だった。彩色のしていない黒と灰色とピンクと白の石を組み合わせ、大きな絵を描き出す。絵柄は地区ごとに異なる。僕の地区の絵はからたちの花だ。薔薇色の背景色の中に真っ白な花が灰色の葉に囲まれて咲いている。細い黒石の縁取り。