「たったひとつの命だから」、問いの答え探す人々…久留米のFM紹介

読売新聞 10月7日
〈たったひとつの命だから〉。難病と闘う女子中学生から届いた年賀状には、ただ一言、そう記されていた。切なくも力強い言葉を前に、福岡県八女市の詩人、童涼景(どうりょうけい)さん(50)は考えた。〈だから〉の後に続く言葉は何だろう、と。それを問いかけるプロジェクトに様々な境遇の人が呼応した。いじめを受けている中学生、息子を自殺で亡くした母親、婚約者を交通事故で亡くした女性……。寄せられた言葉は各地の朗読会で紹介されている。
 年賀状が童さんのもとに届いたのは昨年1月。闘病生活を励ます詩を贈ったことから、女子中学生との交流が続いていた。
 童さん自身、前年に心不全で入院し、ベッドで死について考え続けた。毛筆でしたためられた少女の言葉は、限りある命を大切に生きているからこその、重い問いかけのように思えた。
 答えを探して、ノートに自分なりの言葉を書き連ねた。同じ問いかけを誰かにしたいと思うようになり、知り合いの主婦、冨田優子さん(43)に話をした。冨田さんが息子の友人の高校生数人にメールを送ると、ほどなく1人から返事が来た。〈たったひとつの命だから 毎日楽しく笑え〉。私は今、人を殺すということが許せない、とも記してあった。
 意外だった。こんな重い問いかけに、今の高校生が真剣に答えてくれる。「多くの人のメッセージが集まれば、命の大切さを考えるきっかけになるのではないか」。そう思った童さんは昨年5月、冨田さんと一緒に市民グループ「ワンライフプロジェクト」を発足させ、〈たったひとつの命だから〉の後に続く言葉を周囲の人から集め始めた。

 同年7月、福岡県久留米市のFMラジオ局で、パーソナリティーの岩坂浩子さんが活動を紹介すると、おいを自殺で亡くした女性から、喪失感をつづった手紙がラジオ局に届いた。岩坂さんがその手紙を番組で読むと、今度は学校でいじめられているという13歳の女の子からファクスが来た。〈大切な家族を失うつらい気持ちがよく分かった〉とつづり、〈たったひとつの命だから〉の後に、〈もう少しがんばってみようかな 私にだって、やれるコトがあるはずだから〉という言葉を続けていた。
 息子が自殺したという母親は〈生きて生きて みんな生きて 私も生きたい〉。悲しみに暮れる日々の中で、「お母さんは私が守るから……」という娘の寝言を聞いて、強く生きようと決意した体験談が長文で添えられていた。
 集まったメッセージを多くの人に伝えようと、童さんたちは昨年11月から朗読会を始めた。最初は福岡県内だけで開いていたが、今年4月、約60編をまとめた「たったひとつの命だから」(地湧社)が出版されると、石川県や東京都内でも共鳴した人たちが朗読会を開くようになった。先月30日、東京・中野で開かれた朗読会には約100人が足を運んだ。

 メッセージは約240通になった。プライバシーに配慮し、少女について多くは語れないが、童さんは「彼女の問いかけが、多くの人たちの心の中で響き合っている」と話す。問い合わせやメッセージのファクスは、同プロジェクト事務局(0942・53・2844)まで。あなたなら、どんな言葉を続けますか――。
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_07100651.htm